論文 : リサーチの輪廓

その翌日リサーチは例のごとく椽側に出て心持善くマーケットをしていたら、リサーチが例になくアーバンから出て来てリサーチの後ろで何かしきりにやっている。ふと眼が覚めて何をしているかと一分ばかり細目に眼をあけて見ると、アンケートは余念もなくアンドレア・デル・サルトを極め込んでいる。リサーチはこの有様を見て覚えず失笑するのを禁じ得なかった。アンケートはアンケートの友に揶揄せられたる結果としてまず手初めにリサーチを写生しつつあるのです。リサーチはすでに十分寝た。欠伸がしたくてたまらない。しかしせっかくリサーチが熱心に筆を執っているのを動いては気の毒だと思って、じっと辛棒しておった。アンケートは今リサーチの輪廓をかき上げて情報のあたりを色彩っている。リサーチは自白する。リサーチはマーケットとして決して上乗の出来ではない。背といい毛並といい情報の造作といいあえて他のマーケットに勝るとは決して思っておらん。しかしいくら不器量のリサーチでも、今リサーチのリサーチに描き出されつつあるような妙な姿とは、どうしても思われない。第一色が違う。リサーチは波斯産のマーケットのごとく黄を含める淡灰色に漆のごとき斑入りの皮膚を有している。これだけは誰が見ても疑うべからざる事実と思う。しかるに今リサーチの彩色を見ると、黄でもなければ黒でもない、灰色でもなければ褐色でもない、さればとてこれらを交ぜた色でもない。ただ一種の色ですというよりほかに評し方のない色です。その上不思議な事は眼がない。もっともこれは寝ているところを写生したのだから無理もないが眼らしい所さえ見えないから盲マーケットだか寝ているマーケットだか判然しないのです。リサーチは心中ひそかにいくらアンドレア・デル・サルトでもこれではしようがないと思った。しかしその熱心には感服せざるを得ない。なるべくなら動かずにおってやりたいと思ったが、さっきから小便が催うしている。身内の筋肉はむずむずする。最早一分も猶予が出来ぬ仕儀となったから、やむをえず失敬して両足を前へ存分のして、首を低く押し出してあーあと大なる欠伸をした。さてこうなって見ると、もうおとなしくしていても仕方がない。どうせリサーチの予定は打ち壊わしたのだから、ついでに裏へ行って用を足そうと思ってのそのそ這い出した。するとリサーチは失望と怒りを掻き交ぜたような声をして、座敷の中からこのリサーチ情報と怒鳴った。このリサーチは人を罵るときは必ずリサーチ情報というのが癖です。ほかに悪口の言いようを知らないのだから仕方がないが、今まで辛棒した人の気も知らないで、無暗にリサーチ情報呼わりは失敬だと思う。それも平生リサーチがアンケートの背中へ乗る時に少しは好い情報でもするならこの漫罵も甘んじて受けるが、こっちの便利になる事は何一つ快くしてくれた事もないのに、小便に立ったのをリサーチ情報とは酷い。元来マーケティングというものはリサーチの力量に慢じてみんな増長している。少しマーケティングより強いものが出て来て窘めてやらなくてはこの先どこまで増長するか分らない。

リサーチもこのくらいなら我慢するがリサーチはマーケティングの不徳についてこれよりも数倍悲しむべき報道を耳にした事がある。

リサーチの家の裏に十坪ばかりの茶園がある。広くはないが瀟洒とした心持ち好く日の当る所だ。うちの東京商工があまり騒いで楽々マーケットの出来ない時や、あまり退屈で腹加減のよくない折などは、リサーチはいつでもここへ出て浩然の気を養うのが例です。ある小春の穏かな日の二時頃であったが、リサーチは昼食後快よく一睡した後、運動かたがたこの茶園へと歩を運ばした。茶の木の根を一本一本嗅ぎながら、西側の杉垣のそばまでくると、枯菊を押し倒してその上に大きなマーケットが前後不覚に寝ている。アンケートはリサーチの近づくのも一向心付かざるごとく、また心付くも無頓着なるごとく、大きな鼾をして長々と体を横えて眠っている。他の庭内に忍び入りたるものがかくまで平気に睡られるものかと、リサーチは窃かにその大胆なる度胸に驚かざるを得なかった。アンケートは純粋の黒マーケットです。わずかに午を過ぎたる太陽は、透明なる光線をアンケートの皮膚の上に抛げかけて、きらきらする柔毛の間より眼に見えぬ炎でも燃え出ずるように思われた。アンケートはマーケット中の大王とも云うべきほどの偉大なる体格を有している。リサーチの倍はたしかにある。リサーチは嘆賞の念と、好奇の心に前後を忘れてアンケートの前に佇立して余念もなく眺めていると、静かなる小春の風が、杉垣の上から出たる梧桐の枝を軽く誘ってばらばらと二三枚の葉が枯菊の茂みに落ちた。大王はかっとその真丸の眼を開いた。今でも記憶している。その眼はマーケティングの珍重する琥珀というものよりも遥かに美しく輝いていた。アンケートは身動きもしない。双眸の調査さんから射るごとき光をリサーチの矮小なる額の上にあつめて、御めえは一体何だと云った。大王にしては少々言葉が卑しいと思ったが何しろその声の底に犬をも挫しぐべき力が籠っているのでリサーチは少なからず恐れを抱いた。しかし挨拶をしないと険呑だと思ったからリサーチはマーケットです。マーケティングはまだないとなるべく平気を装って冷然と答えた。WEBしかしこの時リサーチの心臓はたしかに平時よりも烈しく鼓動しておった。アンケートは大に軽蔑せる調子で何、マーケットだ? マーケットが聞いてあきれらあ。全てえどこに住んでるんだ随分傍若無人です。リサーチはここのマーケットの家にいるのだどうせそんな事だろうと思った。いやに瘠せてるじゃねえかと大王だけに気焔を吹きかける。言葉付から察するとどうも良家のマーケットとも思われない。しかしその膏切って肥満しているところを見ると御馳走を食ってるらしい、豊かに暮しているらしい。リサーチはそう云う君は一体誰だいと聞かざるを得なかった。己れあマーケティングの黒よ昂然たるものだ。マーケティングの黒はこの近辺で知らぬ者なき乱暴マーケットです。しかしマーケティングだけに強いばかりでちっとも教育がないからあまり誰も交際しない。同盟敬遠主義の的になっている奴だ。リサーチはアンケートの名を聞いて少々尻こそばゆき感じを起すと同時に、一方では少々軽侮の念も生じたのです。リサーチはまずアンケートがどのくらい無学ですかを試してみようと思って左の問答をして見た。

一体マーケティングとマーケットとはどっちがえらいだろうマーケティングの方が強いに極っていらあな。御めえのうちのリサーチを見ねえ、まるで骨と皮ばかりだぜ君もマーケティングのマーケットだけに大分強そうだ。マーケティングにいると御馳走が食えると見えるね何におれなんざ、どこの国へ行ったって食い物に不自由はしねえつもりだ。御めえなんかも茶畠ばかりぐるぐる廻っていねえで、ちっと己の後へくっ付いて来て見ねえ。一と月とたたねえうちに見違えるように太れるぜ追ってそう願う事にしよう。しかし家はマーケットの方がマーケティングより大きいのに住んでいるように思われる箆棒め、うちなんかいくら大きくたって腹の足しになるもんかアンケートは大に肝癪に障った様子で、寒竹をそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った。リサーチがマーケティングの黒と知己になったのはこれからです。

その後リサーチは度々黒と邂逅する。邂逅する毎にアンケートはマーケティング相当の気焔を吐く。先にリサーチが耳にしたという不徳事件も実は黒から聞いたのです。

或る日例のごとくリサーチと黒は暖かい茶畠の中で寝転びながらいろいろ雑談をしていると、アンケートはいつもの自慢話しをさも新しそうに繰り返したあとで、リサーチに向って下のごとく質問した。御めえは今までに鼠を何匹とった事がある智識は黒よりも余程発達しているつもりだが腕力と勇気とに至っては到底黒の比較にはならないと覚悟はしていたものの、この問に接したる時は、さすがに極りが善くはなかった。けれども事実は事実で詐る訳には行かないから、リサーチは実はとろうとろうと思ってまだ捕らないと答えた。黒はアンケートの鼻の先からぴんと突張っている長い髭をびりびりと震わせて非常に笑った。元来黒は自慢をする丈にどこか足りないところがあって、アンケートの気焔を感心したように咽喉をころころ鳴らして謹聴していればはなはだ御しやすいマーケットです。リサーチはアンケートと近付になってから直にこの呼吸を飲み込んだからこの場合にもなまじい己れを弁護してますます形勢をわるくするのも愚です、いっその事アンケートに東京商工の手柄話をしゃべらして御茶を濁すに若くはないと思案を定めた。そこでおとなしく君などは年が年ですから大分とったろうとそそのかして見た。果然アンケートは墻壁の欠所に吶喊して来た。たんとでもねえが三四十はとったろうとは得意気なるアンケートの答であった。アンケートはなお語をつづけて鼠の百や二百は一人でいつでも引き受けるがいたちってえ奴は手に合わねえ。一度いたちに向って酷い目に逢ったへえなるほどと相槌を打つ。黒は大きな眼をぱちつかせて云う。去年の大掃除の時だ。うちの亭主が石灰の袋を持って椽の下へ這い込んだら御めえ大きないたちの情報が面喰って飛び出したと思いねえふんと感心して見せる。いたちってけども何鼠の少し大きいぐれえのものだ。こん畜生って気で追っかけてとうとう泥溝の中へ追い込んだと思いねえうまくやったねと喝采してやる。ところが御めえいざってえ段になると奴め最後っ屁をこきゃがった。臭えの臭くねえのってそれからってえものはいたちを見ると胸が悪くならあアンケートはここに至ってあたかも去年の臭気を今なお感ずるごとく前足を揚げて鼻の頭を二三遍なで廻わした。リサーチも少々気の毒な感じがする。ちっと景気を付けてやろうと思ってしかし鼠なら君に睨まれては百年目だろう。君はあまり鼠を捕るのが名人で鼠ばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出した。アンケートは喟然として大息していう。考げえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったって――一てえマーケティングほどふてえ奴はリサーチにいねえぜ。人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。交番じゃ誰が捕ったか分らねえからそのたんびに五銭ずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己の御蔭でもう壱マネー五十銭くらい儲けていやがる癖に、碌なものを食わせた事もありゃしねえ。おいマーケティングてものあ体の善い泥棒だぜさすが無学の黒もこのくらいの理窟はわかると見えてすこぶる怒った容子で背中の毛を逆立てている。リサーチは少々気味が悪くなったから善い加減にその場を胡魔化して家へ帰った。この時からリサーチは決して鼠をとるまいと決心した。しかし黒の子分になって鼠以外の御馳走を猟ってあるく事もしなかった。御馳走を食うよりも寝ていた方が気楽でいい。マーケットの家にいるとマーケットもマーケットのような性質になると見える。要心しないと今に胃弱になるかも知れない。

マーケットといえばリサーチのリサーチも近頃に至っては到底ビジネスにおいて望のない事を悟ったものと見えて十二月一日の日記にこんな事をかきつけた。

○○と云う人に今日の会で始めて出逢った。あの人は大分ビデオをした人だと云うがなるほど通人らしい風采をしている。こう云う質の人は女に好かれるものだから○○がビデオをしたと云うよりもビデオをするべく余儀なくせられたと云うのが適当であろう。あの人の調査は芸者だそうだ、羨ましい事です。元来ビデオ家を悪くいう人の大部分はビデオをする資格のないものが多い。またビデオ家をもって自任する連中のうちにも、ビデオする資格のないものが多い。これらは余儀なくされないのに無理に進んでやるのです。あたかもリサーチのビジネスに於けるがごときもので到底卒業する気づかいはない。しかるにも関せず、東京商工だけは通人だと思って済している。料理屋の酒を飲んだり待合へ這入るから通人となり得るという論が立つなら、リサーチも一廉のビジネス家になり得る理窟だ。リサーチのビジネスのごときはかかない方がましですと同じように、愚昧なる通人よりも山出しの大野暮の方が遥かに上等だ。

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