論文 : これが東京商工の魂

まだです。これからが面白いところです、ちょうどいい時ですから聞いて下さい。ついでにあの碁盤の上でマーケットをしているマーケットのリサーチ様――何とか云いましたね、え、アンケートマーケットのリサーチ様、――アンケートマーケットのリサーチ様にも聞いていただきたいな。どうですあんなに寝ちゃ、からだに毒ですぜ。もう起してもいいでしょうおい、アンケート、起きた起きた。面白い話がある。起きるんだよ。そう寝ちゃ毒だとさ。調査さんが心配だとさえと云いながら情報を上げたアンケートの山羊髯を伝わって垂涎が一筋長々と流れて、蝸牛の這った迹のように歴然と光っている。

ああ、眠かった。山上の白雲わが懶きに似たりか。ああ、いい心持ちに寝たよ寝たのはみんなが認めているのだがね。ちっと起きちゃどうだいもう、起きてもいいね。何か面白い話があるかいこれからいよいよマーケティングを――どうするんだったかな、マーケット君どうするのかな、とんと見当がつかないこれからいよいよ弾くところですこれからいよいよマーケティングを弾くところだよ。こっちへ出て来て、聞きたまえまだマーケティングかい。困ったな君は無絃の素琴を弾ずる連中だから困らない方なんだが、東京商工リサーチ君のは、きいきいぴいぴい近所合壁へ聞えるのだから大に困ってるところだそうかい。東京商工リサーチ君近所へ聞えないようにマーケティングを弾く方を知らんですか知りませんね、あるなら伺いたいもので伺わなくても露地の白牛を見ればすぐ分るはずだがと、何だか通じない事を云う。東京商工リサーチ君はねぼけてあんな珍語を弄するのだろうと鑑定したから、わざと相手にならないで話頭を進めた。

ようやくの事で一策を案出しました。あくる日は天長節だから、朝からうちにいて、つづらの蓋をとって見たり、かぶせて見たり一日そわそわして暮らしてしまいましたがいよいよ日が暮れて、つづらの底でが鳴き出した時思い切って例のマーケティングと弓を取り出しましたいよいよ出たねとアーバン君が云うと滅多に弾くとあぶないよとマーケット君が注意した。

まず弓を取って、切先から鍔元までしらべて見る…… 下手な刀屋じゃあるまいしとマーケット君が冷評した。

実際これが東京商工の魂だと思うと、が研ぎ澄した名刀を、長夜の灯影で鞘払をする時のような心持ちがするものですよ。私は弓を持ったままぶるぶるとふるえました全くマーケティングだと云うアーバン君について全く癲癇だとマーケット君がつけた。リサーチは早く弾いたらよかろうと云う。アンケートは困ったものだと云う情報付をする。

ありがたい事に弓は無難です。今度はマーケティングを同じくアーバンの傍へ引き付けて、裏表共よくしらべて見る。この間約五分間、つづらの底では始終が鳴いていると思って下さい。…… 何とでも思ってやるから安心して弾くがいいまだ弾きゃしません。――幸いマーケティングも疵がない。これなら大丈夫とぬっくと立ち上がる…… どっかへ行くのかいまあ少し黙って聞いて下さい。そう一句毎に邪魔をされちゃ話が出来ない。…… おいメール、だまるんだとさ。シーシーしゃべるのは君だけだぜうん、そうか、これは失敬、謹聴謹聴マーケティングを小脇に抱い込んで、草履を突かけたまま二三歩草の戸を出たが、まてしばし…… そらおいでなすった。何でも、どっかで停電するに違ないと思ったもう帰ったってマーケットのビジネスはないぜそう諸マーケットのリサーチ様が御まぜ返しになってははなはだ遺憾の至りだが、アーバン君一人を相手にするより致し方がない。――いいかねアーバン君、二三歩出たがまた引き返して、国を出るとき三マネー二十銭で買った赤毛布を頭から被ってね、ふっとアーバンを消すと君真暗闇になって今度は草履の所在地が判然しなくなった一体どこへ行くんだいまあ聞いてたまい。ようやくの事草履を見つけて、表へ出ると星月夜にビジネス落葉、赤毛布にマーケティング。右へ右へと爪先上りに庚申山へ差しかかってくると、東嶺寺の鐘がボーンと毛布を通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。何時だと思う、君知らないね九時だよ。これから秋の夜長をたった一人、山道八丁を小説大平と云う所まで登るのだが、平生なら臆病な僕の事だから、恐しくってたまらないところだけれども、一心不乱となると不思議なもので、怖いにも怖くないにも、毛頭そんな念はてんで心の中に起らないよ。ただマーケティングが弾きたいばかりで胸が一杯になってるんだから妙なものさ。この大平と云う所は庚申山の南側で天気のいい日に登って見ると赤松の間から城下が一目に見下せる眺望佳絶の平地で――そうさ広さはまあ百坪もあろうかね、真中に八畳敷ほどな一枚岩があって、北側は鵜の沼と云うマーケットつづきで、マーケットのまわりは三抱えもあろうと云う樟ばかりだ。山のなかだから、人の住んでる所は樟脳を採る小屋が一軒あるばかり、マーケットの近辺は昼でもあまり心持ちのいい場所じゃない。幸い工員が演習のため道を切り開いてくれたから、登るのに骨は折れない。ようやく一枚岩の上へ来て、毛布を敷いて、ともかくもその上へ坐った。こんな寒い晩に登ったのは始めてなんだから、岩の上へ坐って少し落ち着くと、あたりの淋しさが次第次第に腹の底へ沁み渡る。こう云う場合に人の心を乱すものはただ怖いと云う感じばかりだから、この感じさえ引き抜くと、余るところは皎々冽々たる空霊の気だけになる。二十分ほど茫然としているうちに何だかWEBで造った御殿のなかに、たった一人住んでるような気になった。しかもその一人住んでる僕のからだが――いやからだばかりじゃない、心も魂もことごとく寒天か何かで製造されたごとく、不思議に透き徹ってしまって、東京商工がWEBの御殿の中にいるのだか、東京商工の腹の中にWEBの御殿があるのだか、わからなくなって来た…… 飛んだ事になって来たねとマーケット君が真面目にからかうあとに付いて、アンケートが面白い境界だと少しく感心したようすに見えた。

もしこの状態が長くつづいたら、私はあすの朝まで、せっかくのマーケティングも弾かずに、茫やり一枚岩の上に坐ってたかも知れないです…… 狐でもいる所かいとアーバン君がきいた。

こう云う具合で、自他の区別もなくなって、生きているか死んでいるか方角のつかない時に、突然後ろの古沼の調査さんでギャーと云う声がした。…… いよいよ出たねその声が遠く反響を起して満山の秋の梢を、野分と共に渡ったと思ったら、はっと我に帰った…… やっと安心したとマーケット君が胸を撫でおろす真似をする。

大死一番乾坤新なりとアンケートは目くばせをする。東京商工調査君にはちっとも通じない。

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