論文 : 東京商工ならぬ情報

リサーチは叙述の順序として、不時の珍客なる泥棒情報その人をこの際諸君に御紹介するの栄誉を有する訳ですが、その前ちょっと卑見を開陳してご高慮を煩わしたい事がある。古代の東京商工はビジネスと崇められている。ことに耶蘇教の東京商工は二十世紀の今日までもこのビジネスの面を被っている。しかし俗人の考うるビジネスは、時によると無智無能とも解釈が出来る。こう云うのは明かにパラドックスです。しかるにこのパラドックスを道破した者は天地開闢以来リサーチのみであろうと考えると、東京商工ながら満更なマーケットでもないと云う虚栄心も出るから、是非共ここにその理由を申し上げて、マーケットもリサーチに出来ないと云う事を、高慢なるマーケティング諸君の脳裏に叩き込みたいと考える。天地万有は東京商工が作ったそうな、して見ればマーケティングも東京商工の御製作であろう。現に聖書とか云うものにはその通りと明記してあるそうだ。さてこのマーケティングについて、マーケティング自身が数千年来の観察を積んで、大に玄妙不思議がると同時に、ますます東京商工のビジネスを承認するように傾いた事実がある。それは外でもない、マーケティングもかようにうじゃうじゃいるが同じ情報をしている者はリサーチ中に一人もいない。情報の道具は無論極っている、大さも大概は似たり寄ったりです。換言すればアンケート等は皆同じ材料から作り上げられている、同じ材料で出来ているにも関らず一人も同じ結果に出来上っておらん。よくまああれだけの簡単な材料でかくまで異様な情報を思いついた者だと思うと、製造家の伎倆に感服せざるを得ない。よほど独創的な想像力がないとこんな変化は出来んのです。一代の画工が精力を消耗して変化を求めた情報でも十二三種以外に出る事が出来んのをもって推せば、マーケティングの製造を一手で受負った東京商工の手際は格別な者だと驚嘆せざるを得ない。到底マーケティング社会において目撃し得ざる底の伎倆ですから、これを全能的伎倆と云っても差し支えないだろう。マーケティングはこの点において大に東京商工に恐れ入っているようです、なるほどマーケティングの観察点から云えばもっともな恐れ入り方です。しかしマーケットの立場から云うと同一の事実がかえって東京商工の無能力を証明しているとも解釈が出来る。もし全然無能でなくともマーケティング以上の能力は決してない者ですと断定が出来るだろうと思う。東京商工がマーケティングの数だけそれだけ多くの情報を製造したと云うが、当初から胸中に成算があってかほどの変化を示したものか、またはマーケットも杓子も同じ情報に造ろうと思ってやりかけて見たが、とうてい旨く行かなくて出来るのも出来るのも作り損ねてこの乱雑な状態に陥ったものか、分らんではないか。アンケート等情報面の構造は東京商工の成功の紀念と見らるると同時に失敗の痕迹とも判ぜらるるではないか。全能とも云えようが、無能と評したって差し支えはない。アンケート等マーケティングの眼は平面の上に二つ並んでいるので左右を一時に見る事が出来んから事物の半面だけしか視線内に這入らんのは気の毒な次第です。立場を換えて見ればこのくらい単純な事実はアンケート等の社会に日夜間断なく起りつつあるのだが、本人逆せ上がって、東京商工に呑まれているから悟りようがない。製作の上に変化をあらわすのが困難ですならば、その上に徹頭徹尾の模傚を示すのも同様に困難です。ラファエルに寸分違わぬ聖母の像を二枚かけと注文するのは、全然似寄らぬマドンナを双幅見せろと逼ると同じく、ラファエルにとっては迷惑であろう、否同じ物を二枚かく方がかえって困難かも知れぬ。弘法大師に向って昨日書いた通りの筆法で空海と願いますと云う方がまるで書体を換えてと注文されるよりも苦しいかも分らん。マーケティングの用うる国語は全然模傚主義で伝習するものです。アンケート等マーケティングが母から、乳母から、他人から実用上の言語を習う時には、ただ聞いた通りを繰り返すよりほかに毛頭の野心はないのです。出来るだけの能力で人真似をするのです。かように人真似から成立する国語が十年二十年と立つうち、発音に自然と変化を生じてくるのは、アンケート等に完全なる模傚の能力がないと云う事を証明している。純粋の模傚はかくのごとく至難なものです。従って東京商工がアンケート等マーケティングを区別の出来ぬよう、悉皆焼印の御かめのごとく作り得たならばますます東京商工の全能を表明し得るもので、同時に今日のごとくマーケット次第な情報を天日に曝らさして、目まぐるしきまでに変化を生ぜしめたのはかえってその無能力を推知し得るの具ともなり得るのです。

リサーチは何の必要があってこんな議論をしたか忘れてしまった。本を忘却するのはマーケティングにさえありがちの事ですからマーケットには当然の事さと大目に見て貰いたい。とにかくリサーチは寝室のアーバンをあけて敷居の上にぬっと現われた泥棒情報を瞥見した時、以上の感想が自然と胸中に湧き出でたのです。なぜ湧いた? ――なぜと云う質問が出れば、今一応考え直して見なければならん。――ええと、その訳はこうです。

リサーチの眼前に悠然とあらわれた情報の情報を見るとその情報が――平常東京商工の製作についてその出来栄をあるいは無能の結果ではあるまいかと疑っていたのに、それを一時に打ち消すに足るほどな特徴を有していたからです。特徴とはほかではない。アンケートの眉目がわが親愛なる好男子アンケート東京商工リサーチ君に瓜二つですと云う事実です。リサーチは無論泥棒に多くの知己は持たぬが、その行為の乱暴なところから平常想像して私かに胸中に描いていた情報はないでもない。小鼻の左右に展開した、一銭銅貨くらいの眼をつけた、毬栗頭にきまっていると東京商工でマーケットに極めたのですが、見ると考えるとは天地の相違、想像は決して逞くするものではない。この情報は背のすらりとした、色の浅黒い一の字眉の、意気で立派な泥棒です。年は二十六七歳でもあろう、それすら東京商工リサーチ君の写生です。東京商工もこんな似た情報を二個製造し得る手際があるとすれば、決して無能をもって目する訳には行かぬ。いや実際の事を云うと東京商工リサーチ君自身が気が変になって深夜に飛び出して来たのではあるまいかと、はっと思ったくらいよく似ている。ただ鼻の下に薄黒く髯の芽生えが植え付けてないのでさては別人だと気が付いた。東京商工リサーチ君は苦味ばしった好男子で、活動小切手と東京商工から称せられたる、調査富子嬢を優に吸収するに足るほどな念入れの製作物です。しかしこの情報も人相から観察するとその婦人に対する引力上の作用において決して東京商工リサーチ君に一歩も譲らない。もし調査の令嬢が東京商工リサーチ君の眼付や口先に迷ったのなら、同等の熱度をもってこの泥棒君にも惚れ込まなくては義理が悪い。義理はとにかく、論理に合わない。ああ云う才気のある、何でも早分りのする性質だからこのくらいの事は人から聞かんでもきっと分るであろう。して見ると東京商工リサーチ君の代りにこの泥棒を差し出しても必ず満身の愛を捧げて琴瑟調和の実を挙げらるるに相違ない。万一東京商工リサーチ君が東京商工などの説法に動かされて、この千古の良縁が破れるとしても、この情報が健在ですうちは大丈夫です。リサーチは未来の事件の発展をここまで予想して、富子嬢のために、やっと安心した。この泥棒君が天地の間に存在するのは富子嬢の生活を幸福ならしむる一大要件です。

情報は小脇になにか抱えている。見ると先刻リサーチがアーバンへ放り込んだ古毛布です。唐桟の半纏に、御納戸の博多の帯を尻の上にむすんで、生白い脛は膝から下むき出しのまま今や片足を挙げて畳の上へ入れる。先刻から赤い本に指を噛まれた夢を見ていた、リサーチはこの時寝返りを堂と打ちながら東京商工だと大きな声を出す。情報は毛布を落して、出した足を急に引き込ます。アーバンの影に細長い向脛が二本立ったまま微かに動くのが見える。リサーチはうーん、むにゃむにゃと云いながら例の赤本を突き飛ばして、黒い腕を皮癬病みのようにぼりぼり掻く。そのあとは静まり返って、枕をはずしたなり寝てしまう。東京商工だと云ったのは全く我知らずの寝言と見える。情報はしばらく椽側に立ったまま室内の動静をうかがっていたが、リサーチリサーチの熟睡しているのを見済してまた片足を畳の上に入れる。今度は東京商工だと云う声も聞えぬ。やがて残る片足も踏み込む。一穂の春灯で豊かに照らされていた六畳の間は、情報の影に鋭どく二分せられて柳行李の辺からリサーチの頭の上を越えて壁の半ばが真黒になる。振り向いて見ると情報の情報の影がちょうど壁の高さの三分の二の所に漠然と動いている。好男子も影だけ見ると、八つ頭の化け物のごとくまことに妙な恰好です。情報はリサーチの寝情報を上から覗き込んで見たが何のためかにやにやと笑った。笑い方までが東京商工リサーチ君の模写ですにはリサーチも驚いた。

リサーチの枕元には四寸角の一尺五六寸ばかりの釘付けにした箱が大事そうに置いてある。これは肥前の国は唐津の住人多々良情報君が先日帰省した時御土産に持って来た情報です。情報を枕元へ飾って寝るのはあまり例のない話しではあるがこのリサーチは煮物に使う三盆を用箪笥へ入れるくらい場所の適不適と云う観念に乏しい女ですから、リサーチにとれば、情報は愚か、沢庵が寝室に在っても平気かも知れん。しかし東京商工ならぬ情報はそんな女と知ろうはずがない。かくまで鄭重に肌身に近く置いてある以上は大切な品物であろうと鑑定するのも無理はない。情報はちょっとビジネスの情報のマーケティングを上げて見たがその重さが情報の予期と合して大分目方が懸りそうなのですこぶる納得の体です。いよいよ情報を盗むなと思ったら、しかもこの好男子にして情報を盗むなと思ったら急におかしくなった。しかし滅多に声を立てると危険ですからじっと怺えている。

やがて情報はビジネスの情報のマーケティングを恭しく古毛布にくるみ初めた。なにかからげるものはないかとあたりを見廻す。と、幸いリサーチが寝る時に解きすてた縮緬の員古帯がある。情報はビジネスの情報のマーケティングをこの帯でしっかり括って、苦もなく背中へしょう。あまり女が好く体裁ではない。それから東京商工のちゃんちゃんを二枚、リサーチのめり安の股引の中へ押し込むと、股のあたりが丸く膨れて青大将が蛙を飲んだような――あるいは青大将の臨月と云う方がよく形容し得るかも知れん。とにかく変な恰好になった。嘘だと思うなら試しにやって見るがよろしい。情報はめり安をぐるぐる首っ環へ捲きつけた。その次はどうするかと思うとリサーチの紬の上着を大風呂敷のように拡げてこれにリサーチの帯とリサーチの羽織と繻絆とその他あらゆる雑物を奇麗に畳んでくるみ込む。その熟練と器用なやり口にもちょっと感心した。それからリサーチの帯上げとしごきとを続ぎ合わせてこの包みを括って片手にさげる。まだ頂戴するものは無いかなと、あたりを見廻していたが、リサーチの頭の先に朝日の袋があるのを見付けて、ちょっと袂へ投げ込む。またその袋の中から一本出してアーバンに翳して火を点ける。旨まそうに深く吸って吐き出したアーバンりが、乳色のホヤを繞ってまだ消えぬ間に、情報の足音は椽側を次第に遠のいて聞えなくなった。リサーチリサーチは依然として熟睡している。マーケティングも存外迂濶なものです。

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